ソウル・インタビュー

日本一になって気づいた、経営者としての「本当の幸せ」

 

人財育成・店舗マネジメントコンサルタント
幸せ循環経営コーチング

瑞穂更紗さん

 

―瑞穂さんは延べ15年間、居酒屋や焼き肉店を経営されていたとお聞きしています。飲食店の売上伸長率や顧客満足度を総合評価するコンテストで2年連続日本一に輝くなど、素晴しい実績も残されていますよね。

いま展開されている店舗や組織へのマネジメントのお仕事も、そうした実経験をベースにされたものだと察しますが、具体的にどのような特徴があるのでしょうか。

 

具体的な話の前に、「戸が笑う」という言葉をご存知ですか?

 

―いえ、初めて聞く言葉ですね。

 

人気のあるお店は、楽しそうな雰囲気というか、思わず入ってしまうような何かを放っています。客足が途絶えず、どんどん繁栄していきます。そのようなお店の状態のことを「戸が笑っている」と表現することがあります。

ではどうすれば戸が笑うようになるのか。そのためには何に意識を向ける必要があるのか。店舗マネジメントのお仕事では、私自身の経験から見つけ出した本質をお伝えしています。

 

―なるほど。ではストレートに聞きますが、戸が笑うためには何が一番大切ですか?

 

一言で表現するなら、「自分が心から笑っている」ということに尽きます。つまり、その仕事を愛しているかどうかがすべてです。経営者はもちろんのこと、アルバイトを含めたスタッフ全員がそういう状態にあるなら、そのエネルギーはお店の外に溢れ、自然とお客さんが集まって来ます。

 

―アルバイトも全員となると、かなりの結束力が必要となりそうですね。仮にそういう状態になったとしても、お客さんが入らなくなる、つまり戸が笑わなくなることも長い経験のなかであったのではないでしょうか?その場合は、具体的にどういったことが原因でしたか?

 

私の経験では、仕事の目的が明確であり、謙虚さを忘れなければ問題は起りませんでした。けれど、目的から逸れ、傲慢になるとお客さんはすぐ、お店に寄りつかなくなります。そうしたエネルギーの乱れは、本当に伝わってしまうのです。

 

―目的というと、仕事そのもののミッションのようなものですか?

 

そうですね。大げさなものでなくていいんです。例えば「お客さんに心から喜んでもらう」とか。そこにいつも立ち返られるなら、実は他の問題も解決できます。

謙虚でなく、傲慢になると、自分ではなく他人を責め始めます。オーナーはスタッフを、スタッフはオーナーを悪く言い始めます。または繁盛しないことを立地のせいにしたり、流行のせいにしたり、同業他店と比較して自分たちのお店を卑下したり。

 

―すべて自分以外の何かが悪いと。つまり他責になっていくんですね。そうなると何も生み出せないし、その場の人間関係もぎくしゃくしていきそうです。確かに、そんな店には入りたくないですね(笑)。

 

そうでしょう。でも実際には、そうしたお店がとても多いのです。営業していると、ある日を境にピタッと客足が途絶えるときがあります。そこで経営者が自分を見つめ、いまは内側の状態を調整する時間だと捉え直すなら、改善すべきことがいくつも見えてきます。

例えば、日ごろ手を掛けられない場所を掃除するとか、元気のないスタッフの話をしっかり聞いてあげるとか。でも多くの場合、ここで広告を打ったり、人件費を削ったりといった「自分以外」を変えようとしてしまうんですね。すると本質的には何も変わらず、結果としてますます悪くなっていきます。

「お客さんに心から喜んでもらう」という目的に心から立ち返ることができるなら、ただその目的のためだけに自分たちを磨き始めるはずです。

謙虚になり、飲食店なら食材に愛を込めて調理をし、喜びをもってお客さんに接する。そうすれば自然とお客さんも喜んでくれます。そんなお店には、お客さんだけでなく、素晴しいスタッフもどんどん集まってきます。

 

―では、アルバイトなどのスタッフ全員が仕事を愛する状態を、瑞穂さんはどのように生み出していかれたのでしょうか?

 

まず経営者自身がスタッフを100%信頼することが大前提となります。私は居酒屋などの経営をしているときに「アルバイトは私のメンター、私の教師」だと思って接していました。

これだけ聞くと、なんだかご立派な精神論に聞こえてしまうかもしれませんが、実際はのたうち回るほどの苦しい体験を越えて辿りついた教訓なのです。だからこそ、組織、店舗のマネジメントにおいて最も大切なことだと断言できます。

 

―「アルバイトは経営者のメンターであり、教師である」。あまり聞いたことのない考え方ですね。その「のたうち回るほど」の体験についてお聞きしても構いませんか?

 

もちろん大丈夫です。

父が経営していたフランチャイズの居酒屋(86坪、110席)を引き継いで数年が過ぎたころのことです。それまで様々な苦労をともに乗り越えてきた男性社員の不正が発覚しました。しかも、私が運営を始めた時期から、それはほぼ毎日続いていたのです。

 

―どういった不正だったのですか?

 

横領です。数年間で数百万円分になっていました。どんなときも一緒だった相手が、ずっと陰でそんな裏切りをしていた……。私は胃が煮えくり返るほどの怒りと同時に、ひどい人間不信になってしまいました。

かといって彼は唯一の社員であり、ほかに任せられる人もなく、日々の営業を考えるとすぐに辞めてもらうわけにもいかない。誰にも言えず、一人で悶々と悩み、苦しんでいたときに、あるアルバイトの女の子がたった一言で私を救ってくれたのです。

 

―それは興味深いですね。どんな励ましの言葉だったのですか?

 

励ましの言葉ではないのです。

その女の子は一カ月後に辞めることが決まっていました。私はその子に頼まれたのです。「男性社員のいい加減さが目について仕事がしづらい。このお店でとても大切なことをたくさん学んだので、あの人のことも信頼して辞めたい。信頼できるように、あの人のいいところを教えてくれませんか」と。

もう、すっごい驚きました。自分がひどい人間不信になり、その元凶である社員を、この子は「信頼したい」と願っている……。「人を信頼する」という素晴らしさを、私はすっかり忘れていたんだと気づかされました。すべては自分の在り方だったのです。その後、社員には責任をとって退職してもらい、改めて「信頼」をベースに運営をスタートさせたのです。

 

―在り方と信頼。その後、どのようにこの2つを変えていかれたのでしょう?

 

まずはアルバイト一人一人を信頼し、縁あってうちに来てくれたことに対して100%感謝することから始めました。そうすると、全てのアルバイトがそれぞれの仕方でリーダーシップを発揮していることに気づけたのです。問題を起こす子でさえも、とても貴重なリーダーシップを執ってくれていたのです。

 

―問題児でさえも、貴重なリーダーシップを?

 

はい。たとえばいつも遅刻してくる子は、組織の規律が厳しすぎるというサインを発していました。よくグラスを割る子は、現場がピリピリして無駄な緊張感が生まれているということを知らせてくれていたのです。

仕事中にパニックとなり取り乱した子もいたのですが、3時間、休憩室でハグしたり傾聴したりしていたら、この子の問題の原因は私にあるということに気づきました。頼られて、依存させていたことが分かったのです。「もっと受け止めて欲しい」というメッセージ。そうさせてしまった私の在り方に意識を向けるきっかけを、自ら犠牲になって表現してくれたのです。

 

―なるほど。一見、問題と思えることも、実は組織全体の何らかの「ひずみ」が形となって表れているだけ。その問題自体を指摘して押さえつけるのではなく、しっかりと問題の背後にあるものに目を向け、耳を傾けていく。そうすることで組織全体が良い方向に進んでいくわけですね。問題を起こす子は、そこに気づかせる役割を演じてくれる貴重な存在だと。ああ、だから「アルバイトはメンターであり、教師である」と。だんだんと分かってきました。

 

その頃から、実はアルバイトの採用面接も変えました。面接だけで2時間かけ、じっくり話をきくようにしたのです。

 

―アルバイトの面接に、2時間?聞いたことないですね。なぜそこまで?

 

ひとつのお店で一緒に働くなら、良い組織にしたほうが誰にとっても幸せですよね。では、良い組織をつくるには、どうするのが最も効率的なのだろうと考えてみたのです。答えは明白でした。「大切にしたいこと」や「目指す場所」を共有できる人を集めることだと。

 

―それで、2時間は必要だという結論に行き着いたわけですね。

 

そうなのです。まず応募してきた時点で「面接2時間」と伝えると、お金目当てだけの人は面接に来ません。それでもやってきた人には、まず1時間かけて、メモを取りながらこれまでの人生をしっかりと聞きます。その後、お店の理念やビジョンなどを伝え、その人のやりたいこと、または学びたいことと共通している部分をともに確認していくのです。

連続日本一は、そのようにして一人一人と向き合い、スタッフ全員の個性と可能性が全開になった結果なのです。ただ頂点に立った後で、私はもっと大切なことに気付くことになりました。


(日本一受賞の瞬間。スタッフとともに)

 

―日本一が(日本一受賞の瞬間。スタッフとともに)頂点ではなかったのですか?

 

もちろん、そこに向けて皆で一丸となった日々はとても素晴しい経験ですし、かけがえのない時間でした。けれど、その後私は、何かがずれている感じを覚えるようになったのです。なんというか、「どこまで頑張ればいいんだろう」というような。実際、私自身が幸せではなく、いつもすごく無理している自分がいたのです。

 

―これまでの表現を借りるなら、「自分が心から笑っている」という状態ではないと気付いた、ということでしょうか?

 

そうですね。皮肉にも、日本一になった後でそのことに気付きました。するとその後、競合他店が近隣にいきなり6店舗開店するなど、自分ではコントロールできない事態が次々と起こり始めたのです。それから2年のうちに、年商1億を超えていた2店舗を閉じ、売却しました。

 

―大きな決断ですね。

 

はい。周りからは「決断が早すぎる」という声がたくさん上がりました。けれど、体裁抜きにして「自分の心」に従ったとき、このまま続けても半年後、さらに1年後はもっと状況が悪化していると判断できたのです。成功にしがみついて、躊躇している場合ではないことは明確だったのです。

さらに、私自身も子宮ポリープが見つかり、手術しました。経営者としての役割ばかりを演じ、自分自身を大切にしていなかった結果、身体が悲鳴を上げたのだと感じています。

 

―つまり、最高の成功体験は、実は最大の気づきのきっかけに過ぎなかった。栄光と挫折を重ね、さまざまな学びや知恵に触れた瑞穂さんだからこそ、経営者の幸せを支援できるのでしょうね。

 

ああ、確かにそうかもしれないですね。お店が繁盛して成功するのは当然、大切です。多くのお客さんにお店を愛してもらうにはどうすればいいのか、そのためは人財をいかに育てればいいか。現場で検証しながら磨き上げてきた具体的な方法をお伝えすることは私の喜びです。

でも何より、根本は経営者自身が幸せになることです。そうでなければ、いずれ成功は大きな痛みに変わってしまいます。そんな想いを、縁あって出逢った経営者の方には決して味わってほしくありません。

経営者も、スタッフも、お客さんも笑顔になり、幸せが循環する空間をつくっていくために、これからも私の経験を必要とされる経営者の方に伝えていきます。(インタビュアー、大村たかし)

 

 

瑞穂 更妙(みずほ・さらさ)

100年以上続く老舗家具店を継いだ父親と、実家がガス会社や不動産業を営む母親のもとに生まれる。大学卒業後、アパレルメーカーへ就職。家族の体調不良をきっかけに、当時父親が経営していた飲食店の運営を始める。社員の不正など苦労を重ねながら独自の採用面接・人財育成法を見出す。自ら現場に出ていた飲食店がパートナーズフォーラム(前年対比の売上伸長率、顧客満足度、客単価向上比率、衛生管理などを総合的に評価)で2011、12年に2年連続日本一に輝く。さらに12年には、経営する別の店舗も日本一となった。その代表として行うプレゼンテーションにおいても、参加1000店舗以上の中で最優秀賞を獲得した。現在、500人以上のアルバイトの採用、育成に関わった経験をもとに、人財育成、店舗経営のコンサルティングを展開。併せて、経営者自身が心から幸せを感じながら持続的に成功するためのコーチングを提供している。
Eメール:mizuho.sarasa@gmail.com

 

**********

インタビュー式「響感プロフィール」


あなたの最も伝えたいこと』を聞かせください。
対談記事にまとめ、響き、感じる』プロフィールに仕上げます。完成した記事はPDF化し、お渡しします。お相手に、ご自身のことを深く響かせるためのツールとして、ご自由にお使いください。詳しくは、こちらから。