ソウル・インタビュー

先生たちと共に「人が育つ場」を目指して

「長男を育てるなかで、自分の価値観が完全に崩れ去る体験をしたのは、きっと私のコーチングや人間理解に影響していると思います」

「自分がいいと思うものではなく、本人にとって何が大切かを見極めること。そのことがいかに重要なのかを痛みとともに学びました」

教育現場でコーチング授業を草の根的に広げられている橋口奈生さん(横浜市)。深い人間理解に基づく言葉に、「人を育てる」ということの意義深さを改めて感じました。

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先生たちと共に「人が育つ場」を目指して

一般社団法人シーズ グロース コーチング代表 橋口奈生さん

 

―橋口さんは小中学校などでコミュニケーションの授業を持たれていらっしゃいますが、どのような内容のものを提供されているのでしょうか? そして、それによって現場ではどういった変化が生まれていますか?

 

「話を聞くこと」「承認すること」「考えること」などをテーマに、ゲーム形式のワークを楽しみながら気づきを深める内容です。月に1回ずつ、6ケ月ほど積み重ねていきます。先生方からは「子どもたちがけんかをしなくなった」「協調性が生まれた」といった感想が届いています。

 

―どうしてそのような変化が起きてくるのでしょうか?

 

そうですね。授業を行う私たち自身が「傾聴」「承認」という姿勢で接することが、子どもたちに大きく影響しているのだと思います。私たちは、子どものそのときの状態や感情をそのまま受け止めます。

例えばワークをするにしても、やりたくないと言う子には参加しないことを認めます。男子から「学校を破壊したい」といった発言が飛び出すことも珍しくありませんが、「へえ、破壊したいんだね」とその想いを承認するのです。

 

―普通、そうした行為や発言は先生から否定されて、叱られますよね。

 

そうですよね。でも多くの場合、子どもたちはただ、そうした行動や発言をしたいだけなんです。そこで気持ちを受け止めてあげると解消されるのです。しかも、一旦承認されると「いや……。そんなことをしたいんじゃない。本当は……」と内側に秘めた純粋な想いに自分で気づき、語り始める場合もあります。

表面的な言動の奥にある想いを言葉にし始めるのですね。それがクラス全体にとって、とても多くの学びとなることもあります。

 

―現場の先生たちが、そのような関わり方をしていないのはどうしてでしょうか?

 

先生たちの仕事は本当に大変で、日々一杯いっぱいなんですね。授業、クラス運営、保護者への対応……。そうした日常業務で忙殺されていらっしゃいます。そんな余裕のない現状のなかで、学習させる、教え込む、規律を守らせるといった従来のティーチング的な関わり方を続けざるを得ないのです。

 

―だからこそ、そこに橋口さんたちコーチが入ることで子どもたちが本来持っている力を開くサポートになる、ということでしょうか?

 

そうなれるように、私たちも先生方の力を借りながら日々研鑽を積んでいます。

いまの学校は、本当に大変なんです。先日、コーチングの授業を受け入れていただいている小学校の校長先生とお話しました。その方によるとコーチング的な子どもたちとの関わり方は、本来現場で10年前後のキャリアがある先生なら失敗を繰り返す過程で自然と学び、できるようになるものだそうです。

でも、いまは先生自身がそこまで育たない。先生の置かれた状況が厳しすぎて、そこまで育つ前に心を病んで、潰れてしまう人がとても多いと。だからこそ、私たちのような学校現場でのコーチングの授業が必要なのだと仰っていました。

 

―つまり、児童、生徒だけでなく、先生たちにとってもコーチングは必要な学びなのですね。

 

そう思います。私は学校に伺う以外に、先生たち向けにクラスビィルディングの連続講座も開いています。考える力を付けるための質問の仕方、自己肯定感を上げるための承認の仕方などを、クラスで応用できるまで実践的にしっかりと身につけていく内容です。これまで5年間で11期開講し、150人以上の先生方に提供させていただきました。

 

-その講座を修了すると、先生たちにどんな違いが生まれますか?

 

一番の違いは、人間理解が深まり、対応力が上がるということです。どうにかしてクラスを上手く運営しよう、コントロールしようというそれまでの価値観から、どうすれば生徒たちのことを理解できるのか、そのためには自分はどういう状態で在ればいいのかという意識に変わっていかれます。すると、どんな問題が起きてもそれを学びに変え、自己成長のチャンスとして捉えられるようになるのです。

 

―先生自身の人間理解が深まることで、自然と子どもたちへの接し方、関わり方に影響がでてくるということでしょうか。それが結果として、クラスビィルディングにつながっていくのですね。

 

そうですね。先生の在り方が変わるなら、子どもたちが先生に感じる信頼感、安心感もより深まっていきます。そうしたクラスでは、子どもたち同士の間にも信頼感が芽生え、互いに成長していく場になっていきます。

 

―なるほど。ところでいままでお聞きしたお話は、橋口さん自身の子育て経験からの影響もあるのでしょうか?一般的な学校コーチングよりも、さらに本質的な印象を受けたのですが。

 

そうですね……。長男を育てるなかで、自分の価値観が完全に崩れ去る体験をしたのは、きっと私のコーチングや人間理解に影響していると思います。

私は母からとても厳しく育てられました。ずっと不自由で、抑圧され続けたという感じがあります。それが嫌だった私は、自分の息子をできるだけ自由に育てようと決めました。勉強しなさいとも、学校行きなさいとも言わず、本人の選択を尊重したのです。ところが小学5年のときに、息子は泣いて私に訴えました。「ちゃんと怒ってくれ、ルールを決めて縛ってくれ」と。

 

―え? つまり、厳しくて、不自由なほうがいいと?

 

息子に言わせると、「やってもやらなくても、どっちでもいいという自由を与えられると、楽な方を選びがちになる。そうすると、弱い自分と向き合わざるを得ない」「怒られたらやれるのに、やらない選択をするから、どんどん自分は弱くなる。それは悪い自分だと思ってしまうので苦しいんだ」と。もう、後ろから頭を殴られたような衝撃を受けました。

 

―お子さんの方から厳しくしてくれと……。逆の話はよく聞きますけど。

 

そのとき気づいたんです。私は、私の価値観にこだわっていただけだったと。その価値観を子どもに押しつけることで、母が私に対してしたこととは逆の形で子どもを苦しめていたんだなと。自分がいいと思うものではなく、本人にとって何が大切かを見極めること。そのことがいかに重要なのかを痛みとともに学びました。

 

―それは育児だけでなく、すべての人間関係において大切なことのように思えますね。

 

そう思います。小学校でのコーチングの授業では、児童にストロータワーを作ってもらうことがあります。100本のストローとセロハンテープを使って、制限時間内にどれだけ高いタワーが作れるかをグループごとに競わせます。そのとき大切になるのも「自分のこだわりを捨てること」なんです。

 

―子どもたちは、どんなこだわりを持っているのでしょう?

 

短い時間でタワーを完成させるには、全員の協力が不可欠です。他のメンバーの意見を聞き、みんなでゴールを目指し、失敗してもすぐにリカバーしていく臨機応変さが求められるのです。そのとき「僕はこうしたい」「私はこのやり方が正しいと思う」といった、自分だけの意見を通そうとすると、まったく進まなくなります。

 

―なるほど。そのことに、子どもたちは自分で気づいていくのですか?

 

そうなんです。こちらがあれこれ言わなくても、やりながら自分たちで調整していきます。もちろん、意見がぶつかり合うグループもあります。でも、一度ぶつかったからこそ、そこからの結束力は凄いですね。本来秘めている人間力というか、そういうポテンシャルが発揮されていきます。子どもの力というのは、本当に素晴しい。見ている先生たちも驚かれますね。

 

―先生たちは、どのように受け止められていますか?

 

「自分も価値観にこだわっていることに気づいた」「こだわりを捨てる必要性を感じた」といった感想をいただきます。変化していく子どもたちの姿から、自分が変わらなければと気づかれるようです。特に現場で試行錯誤を重ねてこられたベテランの先生ほど、「自分ごと」として深く受け止められる傾向にあります。

 

―経験を積んだ先生ほど、気づきが深いというのはおもしろいですね。ベテランになるほど、自分の経験や方法論にしがみついてしまいがちなのかと思いましたが、そうではないのですね。

 

そういう先生も少なくないかもしれません。でもどんな先生も、基本的には子どもたちのためにより良い教室、より良い学校を創っていくにはどうしたらいいかととても真剣に悩まれているのですこれからもそうした先生たちと共に、私自身も学びと気づきを深めながら、「人が育つ場」を創っていけたら嬉しいです。(インタビュアー 大村たかし)

 

 

橋口さんが代表を務めるシーズ グロース コーチングのHPは、こちらです。

 

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